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東京高等裁判所 平成7年(ラ)425号 決定 1996年2月01日

抗告人(申立人)

有限会社多摩山晴

右代表者代表取締役職務代行者

中川瑞代

抗告人(申立人)兼右補助参加人

山下晴代

山下義喜

右両名代理人弁護士

飯盛健次郎

相手方(被申立人)

山下美智子

右代理人弁護士

森保彦

主文

原決定を取り消す。

本件申立てを却下する。

申立及び抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、

「1 原決定を取り消す。

2 (主位的申立て)本件仮処分事件について、平成五年六月三〇日及び平成六年七月一三日にした仮処分決定を取り消す。

3 (予備的申立て)本件仮処分事件について、平成五年六月三〇日及び平成六年七月一三日にした仮処分決定を、抗告人らにおいて裁判所の定める担保をたてることを条件として、これを取り消す。

4 訴訟費用は、原審、抗告審とも相手方の負担とする。」

との裁判を求めるというのであり、その抗告の理由は別紙抗告状の「抗告の理由」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  抗告人有限会社多摩山晴(以下「抗告会社」という。)は、昭和五七年一一月に、抗告人山下晴代(以下「抗告人晴代」という。)とその夫亡山下清らによって設立された同族会社であるが、右山下清が平成四年一一月に死亡した後、会社の経営を巡って紛争が生じ、平成五年二月には、抗告人晴代は、抗告会社の社員は同抗告人のみであるとして、単独で社員総会を開催し、当時取締役であった相手方外一名を解任し、新たに抗告人山下義喜(以下「抗告人義喜」という。)を取締役に選任した。

(二)  そこで、相手方は、平成五年三月一九日、抗告会社の出資口数三〇〇口のうち六〇口を有する社員であると主張して、抗告人晴代に対しては、取締役解任請求権に基づき、抗告人義喜に対しては、取締役選任決議の不存在確認請求権に基づき、抗告人らを債務者とする職務執行停止・職務代行者選任仮処分を、東京地方裁判所八王子支部に申し立てた(平成五年(ヨ)第一一〇号事件)。同裁判所は、同年六月三〇日、別紙主文目録記載の仮処分決定(以下「本件仮処分」という。)をし、同年七月一三日には、右仮処分における職務代行者を弁護士中川瑞代に変更した。

(三)  本件仮処分発令後しばらくして、抗告会社代表取締役職務代行者(以下「職務代行者」という。)と抗告人晴代及び抗告人義喜(以下、両名を「抗告人晴代ら」という。)との間で、抗告会社の債権債務関係、運営方針等を巡って対立するようになった。そして、抗告人晴代らは、職務代行者の職務について非協力的態度を取るとともに、自己の権利の保全を図るために、種々の裁判上の権利行使等をするようになった。その一方で、抗告人晴代らと相手方との対立は容易に解消しない状態が続いている。

(四)  抗告会社は、元々その経営基盤を抗告人晴代らの財産に依存し、また、本件仮処分発令前から業績が悪化していて、設立当初から多額の負債の返済についても、同抗告人の金銭的援助を受けていたところ、右のように、抗告人晴代らの財政的な協力等が得られないため、抗告会社は、金融機関からの長期借入金の返済を滞るなどその経営状態は更に苦しくなっている。しかし、職務代行者としては、その職務権限の範囲内で、経費の削減や資金繰りなどのために種々の方策を講じて引き続き営業を継続しており、相手方も資金的な援助をするなどして、これに協力している。

2  右事実に基づき検討するに、抗告人らの主張は、職務代行者が抗告会社の経営を引き続き行うときは、抗告会社の経営が破綻し、倒産するおそれがあるというものであり、確かに、抗告会社の経営は極めて苦しい状態が続いているが、その原因は、元々抗告会社の経営状態が芳しくなかった上に、抗告人晴代らと相手方との対立が激しくなっていったことが主なものであること、職務代行者としては、関係者の協力を求めつつ、経営状態の改善に努力しており、その職務の遂行には特に問題は認められないこと、抗告人晴代らと相手方は引き続き対立していて、本件仮処分を継続する必要性が現在も高いといえることなどを考慮すれば、本件において、保全の必要性について事情の変更が生じたとか、本件仮処分により償うことができない損害を生じるおそれがあるとは認められないというべきである。そして、一件記録を精査しても、他に本件仮処分を取り消すべき事情の変更又は特別事情があるとは認められないから、抗告人らの本件仮処分の取消しの申立ては理由がない。

3  なお、一件記録によれば、抗告人晴代らは、平成七年二月一日、本件保全取消申立事件(以下「本件申立事件」という。)を申し立てたが、その際、抗告会社についても、抗告人晴代らが抗告会社について補助参加し、抗告人晴代らが、抗告会社に代わって、本件申立事件を申し立てたこと、原審は、同年三月三一日、抗告人晴代らの補助参加の申立てについて、抗告会社自らが本件申立事件の当事者となっていないことを理由として、右補助参加の申立てを却下するとともに、抗告人晴代らの本件申立てについては、抗告会社を当事者とすることなく、本件仮処分決定を取り消すべき事情の変更又は特別の事情は認められないとして、仮処分取消申立却下の決定(原決定)をしたことを認めることができる。

しかしながら、本案事件はともかく、会社取締役の職務執行停止と職務代行者選任の仮処分における債務者は、職務執行が停止される取締役と当該会社であり(本件仮処分も両者を債務者としている。)、両者の関係は必要的共同訴訟の関係に立つものと解するのが相当である。そして、右のような関係を前提とするならば、右仮処分の取消申立事件においても、仮処分申立事件における債務者すべてを当事者として審理の上、裁判をする必要があり、また、一部の債務者の申立てにより、他の債務者は当然に当事者になるというべきである。しかるに、原審は、抗告会社を当事者とせずに、その余の者のみを当事者として本件申立事件を審理し、原決定をなしたものであって、これは必要的共同訴訟人の一部の者に対する裁判となるから違法であるといわざるをえない。

しかしながら、本件申立事件においては、抗告会社は、当審において、原審における審理について何ら異議を述べずに本件審理に当事者として具体的に関与し、抗告審において直ちに実体判断をすることを求めているから、当審において、直ちに実体判断をすることとする。

三  よって、原決定を取り消したうえ、抗告人らの本件申立てを却下し、申立及び抗告費用は抗告人らの負担とすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官岩佐善巳 裁判官山﨑健二 裁判官彦坂孝孔)

別紙保全抗告状<省略>

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